フェラーリ主導の新シリーズは上手く行かないと思う理由 (1)

 

Max Mosley, Luca di Montezemolo, Bernie Ecclestone

Bernie Ecclestone, Max Mosley, Luca di Montezemolo (Photo: AP Photo/Gareth Watkins Sky Sports)

 

常に何かしら揉めているF1ですが(笑)2021年以降のレギュレーションと収益分配を巡って、リバティ・メディアとフェラーリやメルセデスとの間で意見が対立しているようです。

現在のチーム間格差を是正するため、バジェットキャップの導入や標準パーツの増加、トップチームに偏った収益分配の見直しなどを求めるリバティに対し、フェラーリらは案の定反発。F1離脱→新シリーズ設立すら辞さない構えとのことですから、穏やかではありません。かつてのGPWC (Grand Prix World Championship) ほど表立った動きはまだありませんが、分裂騒動の再燃が危惧される状況です。

今のところはフェラーリの”違法ERS”使用疑惑と、それを巡るFIAとの裏取引(?)によって、一旦沈静化しているようですが、一部メディアの間では、今回こそは単なる脅しではなく本気で脅威と捉えるべきだという意見もあります。ただ個人的にはそれほど思惑通りに行くとは思えません。

 

F1規模の新シリーズを起ち上げる困難

まず根本的な話として、簡単に独立・新シリーズ設立と言いますけど、F1規模の国際レースを新たに構築・運営するには、想像を絶するような労力が必要です。最も近いところでゼロから起ち上げられた国際的なシリーズと言えばFormula E (FE) ですが、F1とは開催規模が別次元です。

ざっと挙げるだけでも、主催団体の設立から始まり、テクニカルおよびスポーティング・レギュレーションの制定、シリーズスポンサーの獲得、開催サーキットとの交渉、参加チームとの折衝、プロフェッショナルなレースディレクターを中心に、検査官など現場の運営スタッフの確保・育成、放送チームの構築、SNSなどの広報部隊etc……。言ってみれば世界を股にかける巨大グローバル企業をゼロから、それも短期間で起ち上げるようなものです。

バーニー・エクレストンのようにF1の表も裏も知り尽くした、超人的なビジネスマンなら、一人で全ての交渉事を賄うことも可能ですが、そのような人物は彼以外には存在しません。となると分業化して、各所に専門的な人物を充てるしかない。

新シリーズに参画すると言われているAmazonがこれらを担当するのか、それともフェラーリから出向するのか知りませんが、彼らに本気でゼロからシリーズを起ち上げるだけの気概があるのかは、正直言って疑わしいです。彼らは結局のところ利益が欲しいだけですからね。

2009年の分裂騒動の際、ウィリアムズとフォースインディアが真っ先にFOTA (Formula One Teams Association) を離脱しFIA側に付いたのも、GPWCが本当に開催可能なのか疑念があったと思うんです。万一GPWCが「開幕までに準備が整わないので延期します」とでもなれば、F1に戻ることもできずチームの存亡にも関わる(スポンサーへの賠償など)。それなら既にインフラが整っているF1に残った方が得策ですから。

 

フェラーリに追随するチームはあるのか?

もしフェラーリにそれだけの覚悟があったとしても、F1との分裂という形では成功はおぼつきません。

分裂となるとフェラーリやメルセデスがDTMのように4〜6台出す、あるいはプライベーターを募ってカスタマーカーを走らせなければ、エントリーが圧倒的に足りません。しかしカスタマーカーを容認すると、今度は勧誘したプライベーターから反発が出る可能性がある。そもそもこの形ではフェラーリとメルセデスがタイトルを独占し続けるだけの退屈なシリーズになるのは目に見えています。たとえF1を凌ぐ超高性能マシンになったところで、フェラーリとメルセデスだけが延々と勝ち続けるシリーズなんて面白くもなんともないでしょう。

つまりAmazonとフェラーリの筋書き通りにコトが運ぶには、分裂ではなく、現在の全チーム&サーキット&スポンサーがそのまま新シリーズ(とりあえずフェラーリが好みそうな名前として”プレミア1”とでも名付けましょうか笑)に移行する、つまり事実上「プレミア1がF1に取って代わる」しかありません。

しかしF1全チームをまとめるだけの力量がフェラーリにあるかと言えば、それも疑わしい。大体フェラーリ自体、2005年にそれまで他メーカーと共にGPWCを形成していながら、バーニーに特別ボーナスなどの優遇策を提示された途端、あっさり寝返ったという”前科”があります。FOTAの崩壊過程を見ても、ワガママ放題のF1チームを全てまとめるのは至難の業、というか不可能に近い。

確かにハースとザウバーはフェラーリと技術的・資金的に密接な関係にあるので、フェラーリの方針には従うしかないかもしれません。しかし他のチームはどうか? 

レッドブルはかねてよりエンジン (PU) がリザルトに及ぼす影響が減ることを望んでいます。しかしプレミア1では現在のPU規定が維持されるどころか、出力の上昇 (1200馬力?) や使用燃料の増加で、現状よりさらにPUの影響力は強まりそうです。そうなれば当然、フェラーリやメルセデスといったフルワークスが圧倒的に有利なのは、ここ数年のF1を見ていれば容易に想像がつきますよね。あらゆる面で余程の厚遇でもしない限り、彼らが簡単にフェラーリに追随するとは思えません。

ウィリアムズは案外忘れられがちですが、現在もフランク御大が51.3%を握る最大株主です。フランク御大がイエスと言わない限りF1離脱は不可能。しかし人生をF1に捧げてきたようなフランク御大が、分配金の増額などという安易な理由だけで、フェラーリの欲望剥き出しの提案に乗るでしょうか? 09年の分裂騒動の時もウィリアムズは真っ先にFIA側の支持に回ったという前例もあります。

フォースインディアは一見ウィリアムズよりは可能性がありそうに見えます。ただプレミア1に後述する不公正な規則・運営や、さらなる格差の拡大があるなら今と何ら変わりません。収益分配の不均衡をEUに提訴するほどのチームが、そのようなシリーズに簡単に乗り換えるでしょうか?

ルノーはF1との契約があるので、すぐの転向は不可。マクラーレンに関しては、どちらにも転ぶ可能性がありますが、結局現状で確実に勧誘できるチームはハースとザウバーだけでしょう。

 

さらに高騰する参戦コスト

ここからは奇跡的に全チームがまとまりプレミア1が新たなF1になった場合を考えます。それでも前途は多難です。

まずは現状でも問題となっているコスト。フェラーリには自己利益・権力の拡大のほか、レギュレーションを緩和し、自由な開発領域を広げたい意図があるように見えます。しかしそれは同時に参戦コストが今以上に跳ね上がることを意味します。

フェラーリは年間500億でも600億でも何の痛痒も感じないのでしょうが、プライベーターはそうは行きません。ましてや無料放送がなくなり、Amazonストリーミングの独占配信ともなれば、視聴者の減少は確実。スポンサーが契約を続けてくれるかどうかもわかりません。プレミア1はそれを補うほどの分配金をチームに支払えるのでしょうか?

コストの高騰がどのような事態を招くかは、かつてのSWC (Sportscar World Championship) やITC (International Touringcar Championship) の結末がよく表しています。フェラーリはそんな金額でシリーズが持続可能だと本気で考えているのでしょうか? プライベーターがこれ以上は堪えられないと一抜け二抜けして行けば、行き着く先はそれこそフェラーリとメルセデスのみのチャンピオンシップです。

では大手メーカーの新規参戦の可能性はどうでしょう? 残念ながらそれも限りなく低いと言わざるを得ません。

ポルシェとアウディは年間予算推定約200億のWEC LMP1を撤退し、その5〜10分の1程度と言われるFormula E (FE) にスイッチ。ポルシェには21年にF1参戦の噂もありますが、熱回生 (MGU-H) を継続するなら参戦しないと言われています。フォードは現在のF1の予算規模では興味なしと明言しており、EVシフトを進める関係でFEやEV化したWRX参戦が噂されています。トヨタとBMWはF1(トップフォーミュラ)自体やる気がないですし、アストンマーティンには根本的にそんな予算はありません。

結局プレミア1への参入可能性があるのは、ルノー&ホンダの”F1仲間”のみ。彼らにしてもそれほどの予算の承認を本社から得るのは容易ではないでしょう(特にカルロス・ゴーン)。このコストレベルでは衰退する未来しか見えません。

 

 

(2)へ続きます。