世界で需要のない日本人ドライバー

 

Katsumasa Chiyo and Nissan GT-R GT3 won the 2015 Bathurst 12 Hours

Katsumasa Chiyo and Nissan GT-R GT3 won the 2015 Bathurst 12 Hour race (Photo:SOFTPEDIA NEWS)

 

「国際(的)レース」というと、F1やWRCなどの世界選手権を思い浮かべるかもしれませんが、必ずしもそれらだけに限りません。ル・マンをはじめ、ニュル、スパ、デイトナ、セブリング、バザースト、それにダカールラリーといった世界的に有名な年に1度の耐久レース(今年からは鈴鹿10Hもここに加わるでしょう)はもちろん、参加ドライバーの半数以上が自国出身者以外で占められているインディやDTM、それにブランパンのような複数国で開催されるシリーズも、国際レースとして括れるでしょう。

ではこれらのレースに日本人ドライバーは何人参加しているでしょうか? 残念ながらゼロか片手で数えるほどしかいません。

 

国際レースに不在の日本人ドライバー

たとえば今年のデイトナ24Hでは、プロトタイプ(P)クラスのDPi4社のうち実に3社が日本メーカーであり、GTDクラスにもレクサスとアキュラが参加していましたが、いずれも日本人ドライバーはゼロ。もちろんIMSAのレギュラーシーズンも同様です。

昨年のバザースト12HはニッサンGT-R GT3で出場した千代勝正 (GT3プロ) と佐野新世 (GT4) のみで、今年はゼロ。唯一、ニュル24Hだけは毎年トヨタやスバルが多くのドライバーを送り込んでいますが、これはクルマの開発やディーラーメカニックの育成が主目的であり、カテゴリーも総合優勝を争うクラスではありません。

試しに米国、オセアニア、欧州のビッグレース参加者数を国籍別に見てみましょう。

 

【デイトナ24H】
米国(地元)61、英国18、ドイツ18、フランス12、イタリア9、ブラジル8、スイス7、オランダ6、オーストリア6、ポルトガル5、カナダ5、メキシコ5、コロンビア4、スペイン4、デンマーク3、南アフリカ3、豪州2、ニュージーランド2、フィンランド2、ベルギー2、中国1、ロシア1、スウェーデン1、アルゼンチン1、アイルランド1、ベネズエラ1

【バザースト12H】
豪州(地元)93、ニュージーランド(準地元)18、ドイツ13、英国9、米国8、フランス6、ベルギー4、オランダ3、イタリア3、オーストリア2、ポルトガル2、カナダ2、スウェーデン1、パプアニューギニア1、南アフリカ1、チェコ1、ブラジル1、シンガポール1、台湾1、モナコ1、スペイン1

【スパ24H】(2017年)
英国37、ドイツ35、イタリア30、ベルギー(地元)18、フランス14、スイス10、オランダ(準地元)9、スペイン7、モナコ7、米国6、日本5、オーストリア5、フィンランド4、南アフリカ3、ロシア3、スウェーデン3、豪州2、カナダ2、ポルトガル2、カナダ1、サウジアラビア1、アルゼンチン1、ノルウェー1、タイ1、アイルランド1、マレーシア1、チェコ1、クロアチア1、プエルトリコ1、オマーン1、トルコ1、デンマーク1、レバノン1

 

地元が多いのは当然として、どのレースでも英国とドイツの多さが際立ちますね。それに続くのがフランス、イタリア、米国。言うまでもなく、これらの国々は世界に冠たる”自動車大国”。ハードだけでなくドライバーというソフトも世界中に”輸出”されているのがわかります。

一方、同じく自動車大国である日本はスパの5人のみ。しかもそのうち3人はグッドスマイルから、1人はニッサンからの派遣で、海外チームからの参戦はジェントルマンの石川資章選手のみでした。日本はハードは世界規模でもソフトは国内に限定されているんですね。それどころか台湾やベネズエラですら出場者がいるようなビッグレースにも、一人もエントリーがない。

また現在、欧米メーカーのファクトリードライバーの中で自国出身者が占める割合は2〜3割程度、多くても半分ほどです。ドイツメーカーには英国やイタリア、スイスやスウェーデン、ブラジル出身のドライバーがいますし、米国メーカーにもスペインやデンマーク出身者が在籍しています。しかしそこにも日本人は一人もいません。

はっきり言って日本人ドライバーは世界で需要がないんですね。

 

海外コネクションの減少

ではなぜこれほどまで日本人ドライバーは国際舞台で需要がないのでしょうか? 

一つには海外経験の極端な少なさがあります。日本ではジュニア時代から海外に出る機会が非常に限られているため、国際レースに出場するようなチーム(関係者)とコネクションを得るチャンスがほとんどありません。当然、国内で走っているだけでは名前を知られることもない。コネクションもない知名度もないでは、海外からオファーが来るわけがありません。これは日本人ドライバーが世界で通用するしない以前の問題でしょう。

それでも80〜90年代までは、バブル景気の恩恵による潤沢な資金のおかげで、メーカーだけでなくトムスやサード、童夢といったチーム単位でも国際舞台への挑戦が可能でした。大変失礼な言い方になりますが、ドライバーはそんなメーカーやチームに”ぶら下がって”さえいれば、国際レースに参戦するチャンスがあったんですね。それが92年の長谷見昌弘/星野一義/鈴木利男組ニッサンのデイトナ24H総合優勝のような偉業にも繋がったわけです。

しかし現代では国内チームにそのような資金力はなく、ドライバーにも海外とのコネクションがない以上、国内のメーカーと紐づいて彼らの決定を待つしか、国際舞台に出るチャンスはありません。

現在では元F1ドライバーや吉本大樹、澤圭太らを除くと、石川選手、山岸大選手のように独自に道を切り拓いているジェントルマンドライバーの方が、国内メーカーのワークスドライバーより海外とのコネクションが豊富という、なんとも倒錯した状況になっています。

 

武者修行でしかない欧州移籍

もう一つは国内メーカーの育成プログラムとの関係です。運よく海外に出る機会に恵まれたとしても、今度はメーカーの”縛り”が待っています。

普通、南北アメリカにせよ、オセアニアにせよ、あるいはインドなどのアジアにせよ、本場・欧州へ渡るドライバーというのは、ほぼ例外なく上位・トップカテゴリーへと自分のキャリアを切り開くのが目的です。しかしこと日本に限っては未だに”武者修行””挑戦”という感が拭えません。

通常は元々が裕福か、スポンサーを見つけるか、あるいはその国のモータースポーツ連盟の支援で欧州へ渡ります。その時点ではそこから先のキャリアがどうなるかは全く未定で、ファクトリーに抜擢されてプロ契約に至るかもしれないし、不本意な結果に終わりレースを止めることになるかもしれない。

しかし日本の場合は完全なるメーカー主導。自動車メーカーがスクールの段階から有望なドライバーを囲い込み、最終的には自社のSF/GT500ドライバーとして働いてもらうのが基本線です。欧州に渡る場合はF1のみが”唯一絶対”の標的であって、それが不可能ならばその時点で即日本に戻り、既定路線通りSFやSGTで走る。欧州行きはあくまで”武者修行”に過ぎず、渡る時点で将来はほぼ決まっているんですね。

もしメーカーの意向に反して欧州に渡った場合には、国本京佑 (TDP) や佐藤公哉 (NDDP) のようにサポートを打ち切られるという仕打ちが待っています(少なくとも外からはそうとしか見えません)。完全なメーカー主導なので、たとえ向こうで高い評価を受けて、どこか別のメーカーやトップチームからオファーを受けてもメーカーは拒否するでしょう。あるいはドライバー自身がメーカーへの”恩義”から断るかもしれません(かつて片山右京がベネトンからオファーを受けながらも、ティレルとヤマハへの義理から断ったこともありましたね)。

それ以前に最初からメーカーの色が付いている日本人ドライバーなど、どれだけ活躍を見せたところでレーダーの外でしょう。いくら「あのジャパニーズはなかなか可能性がある」と思われたところで、どうせ日本に戻るのだからオファーを出しても仕方ないとスルーされるのがオチです。これでは日本人ドライバーは国内メーカーから独立して活動する以外に、欧米メーカーのファクトリードライバーに選ばれる可能性も、海外チームからオファーが来る可能性もゼロでしょう。

メーカーは「慈善事業ではない」とでも主張するでしょうが、そもそも彼らが育成プログラムを始めたのは「F1をはじめ世界で通用する日本人ドライバーの育成」が目的だったはず。それが今では単なる自社利益の追求(ワークスドライバーの自社育成)に堕しているのですから、本末転倒としか言いようがありません。

現在の育成システムが全て悪いとは思いませんが、メーカー主導の”限界”は、この20年で証明されているはず。近年、国際舞台で活躍するドライバーを次々と輩出しているフランスやニュージーランドの例をもう少し参考にすべきでしょう。

 

日本人ドライバーが世界中で活躍する日は来るのか?

どこのソースだったかは失念してしまったのですが、以前ブラジルのモータースポーツ連盟の会長さんが「セナ以降、ブラジル人のF1チャンピオンが生まれていない」ことをファンから問題視された際、「F1以外のカテゴリーも見てください。欧州、北米など世界中あらゆるカテゴリーでブラジル人ドライバーが活躍しています」と返答したことがありました。これを聞いてすごく羨ましく思ったことを覚えています。

いくら国内の専門誌が「DTMとGT500が一緒に走った。◯◯とXXを勘案するとGT500の方が〜秒速い」と悦に入ったところで、世界中から引く手数多なのはDTMドライバーの方。GT500というハードとカテゴリーに興味は持たれても、ドライバーには全く関心がないのが現実です。世界的に名前を知られている現役の日本人ドライバーなんて、元F1ドライバーの3人くらいでしょう。

いずれは世界中で日本人ドライバーが活躍する時代が来て欲しいものですが、現在の”内向き”な状況や、メーカー主導の育成システムからは、残念ながら悲観的にならざるを得ません。