経験値はスペシャリストに優る

 

Marcus Armstrong leads Verschoor and Shwartzman

Marcus Armstrong leads Richard Verschoor, and Robert Shwartzman at round one of the 2018 Toyota Racing Series (Photo:Driven by Matthew Hansen)

今年もこの時期恒例のToyota Racing Series (TRS) が開催されています(デイトナ24Hではないのね^^;) TRSは”真夏”のニュージーランドで行われるジュニア・シングルシーターシリーズ。5ラウンド全15戦を5週連続で行う短期決戦です。シャシーはFIA F3の安全基準に則ったタトゥースFT50。エンジンはトヨタのプロダクションモデル2ZZ-GEをレース仕様に改良したもので約200馬力を発生。燃料にはE85バイオエタノールが使用されています。ギアはSadev製6速パドルシフト、タイヤはミシュランのワンメイクで、性能的には概ねFルノー以上、現行F3未満と考えると良いでしょうか。

ちなみにシリーズ中の1戦にはニュージーランド・グランプリの冠が付されていますが、FIAからF1以外で”グランプリ”の承認を受けているのはマカオGPとこのニュージーランドGPのみです。

 

若手ドライバーの登竜門的存在に

2005年設立のTRSは、当初は地元ニュージーランドや隣国オーストラリアのドライバーでほぼ占められていましたが、昨今では冬季オフシーズンにあたる欧州や北米から、若手ドライバーが走り込みを求めて集まるようになりました。

過去には今季のF1フル参戦が決まったブレンドン・ハートレーや、ポルシェのファクトリードライバーで15年&17年ル・マン優勝のアール・バンバーが参戦したほか、Formula Eでジャガーをドライブするミッチ・エバンス、昨年最年少でGT500チャンピオンに輝いたニック・キャシディ、昨年F1デビューしたランス・ストロール、マクラーレンの支援を受けるランド・ノリスといったドライバーがこれまでにチャンピオンを獲得しています。その他、F1経験者のダニール・クビアトとウィル・スティーブンス、アレックス・リン (FEヴァージン、WECアストンマーティン)やルーカス・アウアー (DTMメルセデス)、ヤン・マーデンボローなどもこのシリーズの出身です。

昨年は後にマカオで大活躍を演じることになるFerdinand Habsburgや、英国F3でチャンピオンを獲得するEnaam Ahmedらが参戦。今年は残念ながらエントリーが13台に減少してしまいましたが、フェラーリジュニアのMarcus ArmstrongとRobert Shwartzman、昨年レッドブルジュニアのメンバーだったRichard Verschoor、F4で注目を集めたJuan Manuel CorreaやCharles Milesiといった次世代の注目ドライバーが参加しています。

しかし残念なことに今年も日本人ドライバーはゼロ。2011年に桜井孝太郎が参加した以外、日本人は誰一人参加していません。せっかくオフシーズンに世界の同世代のドライバー、特にF1チームやメーカーの支援を受ける有力ドライバーと真剣勝負ができる貴重な機会だというのに、実にもったいない。

単にレースだけではなく、TRSには欧州のマネージャーやチーム関係者なども視察に訪れるため、彼らにアピールしたりコネクションを得るチャンスでもあります。なぜそんな絶好の機会をみすみす逃すのでしょうか? 費用的にも5週間の短期決戦のため、欧州のジュニアカテゴリーに1年間フル参戦するよりも確実に安価なはず。それでも独立系のドライバーには厳しいかもしれませんが、少なくともメーカーの育成プログラム、特にTDPはトヨタの現地法人がシリーズを主催しているのですから、参加する意志さえあれば出られるはずです。

結局のところ日本の関係者がこのシリーズ自体を見下しており、この程度のレースに参加しても意味がないと考えているのでしょう。今でも欧州には日本のレースを見下している感が多少ありますけど、日本のモータースポーツ業界のアジア・オセアニア軽視はそれ以上に酷いものがありますね。

 

経験サーキット数の絶対的な差

地理的な問題はあるにせよ、欧州と較べて日本のドライバーは経験するサーキットの数が絶対的に劣ります。欧州では1つのサーキットを年に1回しか走らないことなどザラで、頻繁にテストで使われるコースでようやく数回走る程度。ステップアップしてカテゴリーが変われば開催されるサーキットも変わりますし、ジュニアを卒業するまでに経験するコースの数は20前後に上るでしょう。その上、卒業後も参戦カテゴリーによっては更に増えて行きます。

参考までに昨年FIA F2を圧倒的強さで制し、今年F1デビューするシャルル・ルクレールの場合、これまでに公式戦で経験したコースの数は4年間で21。同じくピエール・ガスリーは昨年のSF参戦までに26、さらにSFとFEで7コースを追加。ランド・ノリスに至っては資金に恵まれていることもあり、3年間で既に32ものコースを経験しています(筆者調べ)。

一方、日本では毎年6ヶ所ほどのサーキットを繰り返し走るのみ。たとえば山下健太はマカオを含めても経験数は僅か8。平川亮は過去2年のELMS参戦により、ようやく16に達する程度です。特に複数のカテゴリーを兼務するドライバーになると、特定のコースだけで年10レース前後も走ることもあり、ある意味国内コースのスペシャリストと化しています。これでは初コースへの適応力など育つわけがありません。

それでも国内レース限定では海外勢を圧倒するなら多少は意味もあるのですが、過去2年のSFでは、初来日&初コースだったストフェル・ヴァンドーンやピエール・ガスリー、フェリックス・ローゼンクビストといった”経験コース数が豊富”なドライバーに、日本の”スペシャリスト”たちは完敗を喫しました。もちろん彼らの能力自体が世界レベルであることは間違いありませんが、多種多様なコース・環境を経験して来た適応力・順応力が、国内のスペシャリストたちを凌駕したわけです。

では日本人ドライバーがそんなに劣っているかと言えば決してそんなことはなく、実際日本のレースを経験した外国人ドライバーは口を揃えて「日本人ドライバーがこんなにレベルが高いとは思わなかった」と語っています。ローゼンクビストなどは「なぜこれほどの実力があるのに欧州へ行かないんだ?」と素直な疑問を呈していましたが、まさに国内だけでそれだけの実力を蓄えられるなら、そこに国際的な経験値がプラスされれば、国際舞台でも通用するドライバーが数多く生まれると思うのですが……。

もちろん「世界なんて興味はない。国内でプロを目指すんだ」という人は国内でたっぷり走り込めば良い。ただ少しでも世界への欲があるならば、TRSに限らず積極的に外へ出るべきではないでしょうか。メーカーにも自分たちが関与する国内ルートに拘らず、積極的にその支援をお願いしたいです。