2017 マカオGPレビュー

2nd(left) Lando Norris, Winner(center) Dan Ticktum, 3rd(right) Ralf Aron

2nd; Lando Norris, Winner; Dan Ticktum, 3rd; Ralf Aron(Photo:Macau Daily Times

Joel ErikssonとCallum Illotのクラッシュまでは、下馬評通りFIA F3の”トップ4”の優勝は固いかと思われたのですが………最終コーナーでの大どんでん返しの末、最後に笑ったのはノーマークだったDaniel Ticktum。ここまでの番狂わせは2008年の国本京佑以来かもしれません。

 

1年間レース出場禁止からの復活劇

Ticktumは2年前の2015年にMSA Formula(現British F4)でフォーミュラカーデビュー。同じ英国人のLando NorrisやIllotとは同期にあたります。しかしその年のシルバーストーン戦で、ぶつけられた相手にブチ切れ、セーフティカー中に前走車10台を抜きまくり、最後は接触した相手にクラッシュし返すという前代未聞の危険行為を犯します。その間、実に13ものイエローフラッグ、4つのダブルイエロー、2つのホワイトフラッグ、それに15のSCボードをことごとく無視。あまりの愚行に弁解の余地などなく、2年間あらゆるレースへの出場禁止(2年目は監視下での執行猶予。ただしテストは可)という重罰を受けました。その速さ自体は既に注目を集めていただけに、あまりにも愚かな行動だったと言わざるを得ません。

Dan Ticktum Banned From Motorsport Competition For Two Years (Motorsport Safety Foundation)

昨年9月末に1年の禁止期間が明け、FIA F3最終戦でレース復帰。マカオにも参戦し予選レース8位、決勝リタイアという結果に終わっていました。今シーズンは2年前にもサポート(ジュニアではない)を受けていたレッドブルのジュニアプログラムに選ばれ、FルノーEurocupにフル参戦。シーズン終盤にはGP3にもスポット参戦し、2ラウンド目で早くも4位に入賞していました。

そんな若いながらも紆余曲折を経ての大一番。しかもF3は僅か3戦目での偉業ですから、何か”持っている”ドライバーなのかもしれません。

 

魅せたハプスブルグ、まとめたノリス

フィニッシュ直前のオーバーテイクで首位浮上、そしてその直後の最終コーナーでのクラッシュと一躍”時の人”となったFerdinand Habsburgは、あの「ハプスブルグ家の末裔」という以外、これまで特に目立つドライバーではありませんでした。Euroformula Openで昨年ランキング2位という実績はあるものの、このシリーズはEurocupよりレベルは劣るという見方もあり、そのFルノーなどでも特に目立ったリザルトもありません。今シーズンのFIA F3ではルーキーながらランキング7位と成長の跡が窺えましたが、それでもチーム内ではNorris、Jehan Daruvaraに次ぐ3番手。まさかマカオという大舞台でここまでの走りをするとは思いませんでした。ダスティーな路面でコントロールを失わなければ、確実に勝ってましたね。資金力もあるので来シーズンが楽しみな存在です。

Ferdinand Habsburg

Ferdinand Habsburg (Photo:Autosport

F1ファンにもその名を知られるようになったNorrisは、中止になったブラジルでのF1タイヤテストからの強行軍。そんな中で予選1回目トップ、2回目も2位とその速さを見せつけました。しかし予選レースでは一転、ローダウンフォース仕様が仇となり急激なタイヤの劣化に見舞われズルズルと後退。決勝では逆にダウンフォースを増やした分、今度はペースの落ちたMaximilian Guntherを抜きあぐね、大外からTicktumに交わされてしまいました。優勝争いに絡めず本人は不満でしょうが、それでも悪いなりに最後は2位でまとめた辺りに、激戦のFIA F3を初年度で勝ち獲った強さが見えます。

余談ですがマカオGPはよく「F1への登竜門」と言われますけど、実は過去の優勝者でF1でも勝ったのはセナ、ミハエル・シューマッハーのチャンピオン二人と、クルサードとラルフ・シューマッハーの計4人しかいないんですね。最近ではフェルスタッペン、少し前だとハミルトンやロズベルグも勝てず、クビツァは2位、ベッテルは3位が最高でした。来季のF1デビューが確実視されているシャルル・ルクレールも2位止まり。そんな”嫌なジンクス”からすれば、案外2位はベストな結果と言えるかもしれません。

 

モトパークが完勝でマカオ初優勝

チームで見るとMotoparkが悲願のマカオ初制覇。以前、佐藤公哉が同チームからユーロF3に参戦していた頃は、PremaやMuckeに全く敵わず後方をウロウロしていたものですが、今やすっかりF3を代表するチームの一つに成長しました。しかも決勝ではEriksson→Sergio Sette Camara→Ticktumと、Motoparkのドライバー間でトップを繋いでおり、チームにとってはまさに完勝と言える出来だったでしょう。

Motopark with VEB

Team Motopark with VEB(Photo:Motopark

そんなチームの中で蚊帳の外だったのが牧野任佑と佐藤万璃音の日本人二人。特に牧野はシーズン後半尻上がりに調子を上げていただけに、9位は期待はずれの結果でした。シーズン中とチームが異なるのはTicktumやSette Camaraも同じ。チームメイトだったRalf AronもVARに移って3位を射止めてるわけですから、言い訳はできません。国内ではセンセーショナルだった彼の速さも、国際レベルではこの位置なのでしょうか、、、。

Carlinは連覇こそ逃したものの、最終的には2-4-7-10位と今年もトップ10に4人を送り込む強さ。Premaはシリーズ同様、IlottとGuntherが上位争いを展開しましたが、Ilottは必ずしも彼の責任ではないのですが、今回も”ポカ”をやらかしてしまいました。彼は純粋な速さではNorrisに匹敵するものがあるのですが、いかんせんつまらないミスで棒に振ることが多い。FDA加入で、今後どれだけ速さを結果に結びつけられるようになるか。

 

今年も惨敗の全日本勢。資金力の差?

最後に全日本F3勢について。

関口雄飛の孤軍奮闘が目立ちましたが、最終的にはAlex Palouの11位が最高と、今年も”惨敗”に終わりました。14年に日欧ともエンジンが新規定に切り替わった際は、1年分開発期間が長かったメルセデス&VWにアドバンテージがあると言われ、その後もエアロやダンパーなどいろいろと低迷の原因が語られてきました。単純にFIA(ユーロ)と全日本の競技レベルの差や、こちらの記事のようにドライバーの執念、がむしゃらさ、意思の強さの違いといったものもあるでしょうが、明らかだと思うのは純粋なチーム力の差。身も蓋もないことを言ってしまえば資金力の差です。

オートスポーツ誌でも特集されていたように、欧州では新興のHitech GPですら「F3だけでここまで?」というほどの施設・リソースを備えています。今年は禁止されましたが、昨年までは風洞を使っての空力開発も行われていました。

それを支えるのが大富豪が出資する各チームの資金力。Premaは昨年までランス・ストロールの父ローレンスが、Hitech GPはロシアの大富豪であるNikita Mazepinの父、Carlinはマックス・チルトンの父がオーナーですし、VARはADAC F4で走らせているKami Laliberteの父=シルク・ド・ソレイユの創設者が出資しています。

欧州でもそんな格差の結果、今季のFIA F3が僅か5チームになったことが問題になりました。名門トムスも近年は台数減で、TDPの若手日本人ドライバーのみのケースも多く、予算の少なさを表しています。これだけ差があると最早努力でどうこうできるレベルではなく、同じF3でもF1のメーカーワークスとプライベーターほどの差が、FIAと全日本のチーム間には存在しているのではないでしょうか。

 

一種のバブルだった2000年代

”鬼門”とまで言われた90年代までとは違い、2000年代になると育成プログラムの成果か、佐藤琢磨・国本京佑の優勝や、07〜08年のトムス連覇など、日本勢の活躍が目立つようになりました。その結果、メディアの中でも「日本勢=マカオで強い」というイメージが定着してしまったように思います。

この時代はホンダとトヨタがF1に参戦した影響で、日本人ドライバーが次々と欧州に出るなど、ドライバーもチームも日本勢全体が上げ潮ムードにありました。おそらく今より多額の資金も投入されていたのではないでしょうか? 一種のバブル状態です。

Oliver Jarvis and TOM'S won 2007 Macau Grand Prix

Oliver Jarvis and TOM’S won 2007 Macau Grand Prix(Photo:Speedsport Magazine

しかしホンダとトヨタが相次いでF1から撤退すると、バブルも簡単に弾けてしまいました。ドライバーの欧州進出は減り、全日本チームも規模が縮小。2010年を境に全日本F3勢は低迷を始めます。日本人ドライバーが活躍するのも、Mucke、T-Sportなど欧州チームから参戦した場合のみ。メーカーとの結びつきが強い全日本勢が縮小する一方、弱肉強食を勝ち残ってきた欧州勢がさらに巨大資本を得れば、差がつくのも当然でしょう。単に2000年代が異常だっただけで、これが正しい全日本F3の実力なのかもしれません。

メディアは「なぜ近年、全日本勢は不振なのか?」を問う前に、まず「全日本勢=マカオで強い」という幻想を抱くのを、いい加減止めるべきでしょうね。