フォーミュラE シーズン3 レビュー(2) チーム編

 

間が空いてしまいましたが、前回のドライバー編に続いて、今回はチーム別のシーズンレビューです。来季以降の動向なども交えて振り返ってみましょう。

 

全チームが独自開発パワートレインに 戦力差は拡大

昨シーズンからパワートレイン(モーター、インバーター、ギアボックス)の開発が自由化されましたが、F1などに較べれば開発可能範囲ははるかに狭くとも、その結果は如実に現れました。ルノー e.DAMSとアプト・シェフラーが3位以下を大きく引き離す一方で、シーズン1で使用されたマクラーレン・アプライド・テクノロジー (MAT) 製の共通パワートレイン (PT) を使用したアンドレッティとチーム・アグリは、それぞれ7位、8位に沈んでおり(下はツインモーターの制御に苦しんだNEXTEVと、開幕2戦で撤退したトゥルーリのみ)、もはや共通PTでは勝負にならないことが明白になりました。今シーズンはカスタマーユニットも含め、全チームが独自開発のパワートレインとなっています。

独自開発となれば性能に差が現れるのは必定で、今季は1位のルノー e.DAMSから5位Techeetahまでが約110点差に収まる一方、Techeetahと6位NEXTEVの間だけで約100点もの大差がついており、完全にAクラスとBクラスに分かれたシーズンと言えるでしょう。

また興味深いのは昨シーズンより2戦増えたにも関わらず、ルノーe.DAMSとアプト・シェフラーが獲得ポイントを減らす一方で、3〜5位のポイントが大幅に増加している点です。つまりマヒンドラ、DSヴァージン、Techeetahの3チームがこれまでの”2強”に近づいたということでしょうね。

では以下、チーム毎に見ていきます。

 

 

Renault e.DAMS(1位 268pt)

Renault e.DAMS 16/17 teams’ champion (Photo:Twitter

シリーズ創設から3年連続でチームタイトルを獲得。基本的な技術規定が変わらない来シーズンも、両タイトルの大本命です。

パワートレインのZE16は、ダブルタイトルを獲得した昨シーズンから更に進化。2速から1速=変速なしへの変更により、ギアボックスを排除しダイレクトドライブとなったことでパッケージの小型化、コーナーでの抜群のトラクションに繋がりました。また必要な冷却量が減ったことで、ラジエーターは標準サイズの半分にまで小型化され、合わせて軽量化に貢献しています。

パワートレインの性能はもちろん、レーシングカーとしての完成度の高さも見逃せません。電気が主役とはいえ、パワーを受け取る足元のセッティングがしっかりしていなければ、良いタイムが出ないのはFEも同じ。そんな”当たり前”のことが普通にできるのが、DAMSやアプトといった”純”レーシングチームを母体としているチームの強みでもあります。

ドライバーもセバスチャン・ブエミ、ニコラ・プロスト共にシーズン5 (18/19) まで契約済みで、不動のラインナップとなっています。

 

Abt Schaeffler Audi Sport(2位 248pt)

総合力の高さで、ルーカス・ディ・グラッシが初のドライバーズタイトルを獲得する一方、チームタイトルは3年連続で逃しました。主原因はダニエル・アプトの得点力の低さですが、シェフラー製パワートレインの競争力にも一因はありそうです。

シーズン2からの変更点はほとんどなく、縦置き1モーターに横置き3速ギアを継続。他の上位勢がカーボンケーシングを採用する一方で、アルミケーシングを使用するほか、ラジエーターも標準サイズであるなど、特にルノーと較べると保守感は否めません。実際、シーズン後半にはレースペースでもマヒンドラやDSヴァージンと互角の勝負に持ち込まれていました。

そんな現状を打破する突破口になるか、来季からはアウディがワークス参戦を開始します。これまでは資金援助が主でしたが、今後は技術面にも積極的に関与することになります。

チームのオペレーション自体は引き続きアプトが担いますが(WECでのヨーストのような形?)、パワートレインにはハード&ソフトとも相当な手が加わるのは間違いありません。特にバッテリーが刷新されるシーズン5に向けては、本格的にアウディ主導で開発が進められるでしょう。

ディ・グラッシは残留が確定。シーズン5以降のオプションも有しており、戦力次第では長期残留の可能性もあります。

一方のアプトは、これまでファミリーチームの”コネ”で残留してきましたが、アウディのワークス化に伴いシートを失うのではないかと言われていました。ただここに来て、もう1年残留の線もあるようです。

アウディのファクトリードライバーであるロイック・デュバルの移籍が当然予想されますが、DTM自体の将来が決まるまで先延ばしされるようで、移籍するとしてもシーズン5からという噂。その他、同じくアウディドライバーとしてブランパンに参戦しているロビン・フラインスも候補でしょうか。

 

Mahindra Racing(3位 215pt)

今シーズン最も躍進したチームです。昨年まで表彰台わずか2回だったのが、ベルリンで初優勝を果たすなどランキング3位へと大躍進を遂げました。

その鍵の一つはベテランのニック・ハイドフェルドと、新加入フェリックス・ローゼンクビストのコンビネーションにあります。ハイドフェルドはベテランらしく、パワートレインのソフトウェア開発や、今季から軽量&新コンパウンドとなったミシュラン・タイヤの特性把握、セットアップ構築でチームに貢献。そんなハイドフェルドを「憧れのドライバー」と明言するローゼンクビストは抜群の適応力を発揮し、デビューイヤーにして初優勝を含むドライバーズランキング3位を獲得。抜群の相性の良さで現状、最もバランスの取れたコンビと言ってもいいでしょう。

パワートレインの”M3Electro”は、昨シーズンはMAT製共通PTに手を加えたモノでしたが、今シーズンはF1でも有名なマグネティ・マレリとの共同開発で完全新設計に。”特殊な構造”の横置きシングルモーターに横置き2速ギアを組み合わせました。カーボンケーシング内に二つのインバーターとDCDCコンバーターを内包する仕様で、これによりラジエーターの小型化→ドラッグの減少に繋がっています。

シーズン3のM3Electro図解1.モーターなど(Photo:Mahindra Racing

同2.ギアボックスなど。

ラインナップは来シーズンも現状維持が濃厚。ローゼンクビストにはインディ(チップ・ガナッシ)からの誘いもあるものの、早くて19年ではと言われています。またチームはオックスフォードシャーに新たな研究・開発施設を新設。さらに上位を目指す体制を整えています。

 

DS Virgin Racing(4位 190pt)

昨シーズンの重くエネルギーを喰うツインモーターから、シングルモーターに変更したことでバランスが改善。シーズン序盤から上位に食い込むも、香港&ベルリンと2度のチームメイト同士による接触で、大量ポイントのチャンスを逸したのが悔やまれます。

それでも後半のダブルヘッダー3連戦ではアプト、マヒンドラと互角のポイントを獲得。サム・バードがNYで2連勝を達成するなど、ランキングも初年度から5位→3位→4位と上位安定を維持しています。

そんな順調に見えるチームですが、DSがシーズン5からパートナーをTecheetahに変更するという噂があります。そのためチームは来季中に新たなパートナーを探すか、カスタマーユニットを使うか、あるいは独自にパワートレインを開発するかの判断を迫られることになりそうです。

ドライバーは先日、ホセ・マリア・ロペスに代わってアレックス・リンの加入が正式発表されました。バードの残留も決定しており、来季は英国人ペアとなります。一方、DSシトロエンと繋がりのあるロペスは1年前倒しでTecheetah移籍か、あるいはFE自体を離れるか……。

ちなみにバードにはDS離脱と合わせてジャガー移籍の噂もあります。ジャガーには、かつてのエンジニアPatrick Cooreyが在籍しており、英国企業のジャガーにとってもバード起用は魅力的な選択肢でしょう。

 

Techeetah(5位 156pt)

中国SECAによるチーム・アグリ買収の正式決定が遅れ、今シーズンの準備に影響した他、パワートレインはソフトウェアも含めルノーのカスタマーユニットを使用するため、満足にテストを行えませんでした(マニュファクチャラー毎にテスト日数が決められているため)

シーズン開幕直後はミスやトラブルも多く、先行きが危ぶまれましたが、オーナー企業による設備投資や、ベテラン・チームマネージャーのDave Stubbsをはじめとしたスタッフの増強が徐々に功を奏し、春以降は競争力を上げていきました。

ルノーZE16の競争力の高さもあり、ジャン・エリック・ヴェルニュは予選スーパーポールに9回進出する速さを発揮。最終戦では初優勝を達成するなどチームリーダーとして組織を引っ張る活躍を見せました。チームメイトは何度か入れ替わったものの、ステファン・サラザンが2度の表彰台を獲得し、チームのランキング5位獲得に貢献しています。

来季も体制は変わりませんが、シーズン5には新たにDSとの提携が噂されており、実現すれば更なる体制強化に繋がるのは間違いありません。

同時に上を目指すには確実なセカンドドライバーが必須。DSシトロエンと繋がりの深いロペス加入のほか、チーム・アグリ時代からフランスの投資グループが参画していることから、サラザン残留、デュバル移籍なども噂に挙がっています。

 

NEXTEV NIO(6位 59pt)

昨シーズンより約40ポイント増と”大低迷”からは抜け出しましたが、今季も上位を争うレベルには程遠い状況でした。開幕戦・香港での驚きのフロントロウ独占など、予選では2度のPPをはじめ度々上位につけたものの、決勝ではズルズルと後退して行くパターンが目立ちました。

パワートレインは今シーズンもツインモーターを継続。Omnigear製モーターは昨シーズンの縦置き(鋼管スペースフレーム内)から横置き(カーボンケーシング内)に変更されていますが、インバーターは旧来通りバッテリー上に設置しています。重量バランスの問題はある程度解決されたようですが、エネルギー消費が多く存分にパワーを使えない悪癖は続いているようで、ツインモーターの有用性には疑問符を付けざるを得ません。

ネルソン・ピケJr、オリバー・ターベイともシーズン4の契約があるようですが、この2シーズンの低迷によりピケには移籍の噂があります。既に複数のチームと交渉中とのことで、中でもジャガーとの交渉はかなり進展している模様です。

ピケが移籍した場合の後任候補には、ロビン・フラインス、アダム・キャロルの名前が挙がっています。キャロルは現チーム代表のGerry Hughes(元スーパー・アグリ&チーム・アグリのエンジニア)と、A1GP(チーム・アイルランド)時代にコンビを組んでいた仲でもあります。

 

Andretti Formula E(7位 34pt)

Formula E最大の謎とも言えるのが”名門”アンドレッティの低迷でしょう。今シーズンも独自開発のパワートレインATEC02を投入し、ロビン・フラインス&アントニオ・フェリックス・ダ・コスタという名手二人を揃えながらも、開幕戦での5位が最高位。ランキングこそ昨年と同じながら、2レース増えたにも関わらず15点減少という低迷ぶりでした。

パワートレインの開発パートナーはマヒンドラと同じマグネティ・マレリへ変更されましたが、マヒンドラが横置き1モーター+横置き2速ギアを採用したのに対し、アンドレッティは縦置き1モーター+縦置き3速ギアという保守的な構造。インバーターも共通PT同様バッテリー上部に設置と、競争力に乏しい代物でした。

幸い、BMWのシーズン5からのワークスパートナーに選ばれましたが、来季に関しては基本的な技術規定に変更はなく、大幅な改善は期待薄でしょう。

ダ・コスタは今季の不振にも関わらず、BMWファクトリードライバー枠で残留が濃厚ですが、フラインスはアウディとの契約があることから離脱が確実。

後任にはBMWのファクトリードライバー、DTM参戦中のティモ・グロックとトム・ブロンクビスト、既にチームのテスト&リザーブも務めているアレクサンダー・シムスが候補に挙がっています。

またあくまでも可能性ですが、スポンサーの英アムリンが、日本の三井住友海上保険に買収されたことに伴い、三井住友側が日本人ドライバーを希望していると言われています。最初にアプローチしたのは同じアンドレッティからインディカー参戦中の佐藤琢磨でしたが、これはホンダが拒否。代わって現在、小林可夢偉の可能性を検討中という噂です。

 

Faraday Future Dragon Racing(8位 33pt)

シーズン1ではルノー e.DAMSに次ぐランキング2位、シーズン2も4位と健闘しましたが、今シーズンは僅か33点、ランキング8位と低迷しました。

原因は複数挙げられます。

一つはバラバラなチーム体制。Nigel Beresfordなどの中心メンバーはイギリス、新たに加入したF1経験も豊富なジャッキー・エッケラートはモナコ、そしてパートナーのFaraday Future (FF) は米国と、組織がバラバラに分かれてしまい、そのマネージメントに苦心しました。来季に向けて組織の再構築は必須です。

もう一つはチーム内のゴタゴタ。ブエノスアイレスでチームメイト同士が接触した際の無線指示を巡って、デュバルのレースエンジニアだったFabrice Rousselがチームと衝突、離脱する結果となりました。しかもその後、メキシコePrixに向けてエステバン・グティエレスと契約間近だったことがバレてしまい(グティエレスは結局ヴェンチュリを選択)更にデュバルとチームとの間に溝が出来てしまいました。完全にチームマネージメントの失敗です。

また今シーズンからパートナーとなったFFも、資金繰りの悪化が噂され、とてもレースに集中できる環境ではありませんでした。

パワートレインは、シーズン2のヴェンチュリ製からマヒンドラ製のカスタマーユニットに変更し、”Penske 701-EV”という独自の名称を冠したモノ。Techeetahとは違い、ソフトウェアはFFからのスタッフ3名が開発を補助しており、本来の予定ではシーズン5を目処にFF製の独自パワートレインを導入する計画でした。しかしFFの財政状況から予想された通り、正式に提携解消が発表されたことから、計画は白紙に戻さざるを得ないでしょう。来季のパワートレインはまだ未定ですが、現状ではあまり期待は持てそうにありません。

唯一の明るい材料はドライバーの早期決定です。チームとの関係が悪化したデュバルに代わり、ポルシェLMP1からニール・ジャニの加入が発表されました。ジェローム・ダンブロジオとは強力なコンビとなりそうです。

 

Venturi Formula E(9位 30pt)

摩訶不思議なチームです。EVの豊富なノウハウがある企業だけに、パワートレイン自体の性能は良いのですが、いかんせん”レーシングチーム”ではないんですよね。

パワートレインはシーズン2同様に、MAT製共通PTの改良型ですが、ギアは2速に変更。開幕前に提携が発表されたZFはこの開発に携わっています。また同じくパートナー契約を結んだROHM製のSiCを使用するなど、パートナー企業との間で活発な開発が行われているようです。ZFは今後、ダンパーの開発、ギアボックスの再設計、パワートレインの新規開発に取り組むようですが、効果が表れるのはシーズン5になるでしょうか。

今季は前半にトラブルが多発。特にマーロ・エンゲルはリタイア&未完走が11戦中6回と苦しめられました。一方、シーズン途中にTecheetahに移籍したサラザンに代わって加入したトム・ディルマンは7戦中4戦で入賞の活躍。その安定した速さと適応力は注目に値します。

来季に向けては、シーズン6からの参戦を表明しているメルセデスのオペレーションを担うHWAが、経験のためヴェンチュリとパートナーを組むという噂があります。その場合、メルセデスからDTMにも参戦するエンゲルの残留は確実でしょう。

チームメイトには同じくメルセデスのファクトリードライバーからポール・ディ・レスタ、ロバート・ウィケンス、エドアルド・モルターラなどの名前が挙がっているほか、選抜テストも予定されており、日本でもおなじみのジェームス・ロシターが参加するという話もあります。

 

Panasonic Jaguar Racing(10位 27pt)

ランキングこそ最下位に終わったものの、9位ヴェンチュリと3点差、7位アンドレッティとも僅か7点差という結果は、来季以降に十分期待が持てるものでした。

開幕からの3戦は全く振るわなかったものの、4戦目のメキシコでダブル入賞。その後もミッチ・エヴァンスが予選・決勝とも度々上位に顔を出す活躍を見せました。

開発開始の遅れから、パワートレインはシーズン1のMAT製共通PTにパートナーのウィリアムズ・アドヴァンスド・エンジニアリングが手を加えた程度の保守的な構造(縦置き1モーター+縦置き2速ギア、インバーターはバッテリー上)でした。既に来季以降の大幅な変更を明言しており、間に合えば来シーズン、遅くともシーズン5には確実に投入されるでしょう。

エヴァンスはチーム側がオプションを行使して残留が濃厚ですが、キャロルは成績不振により離脱が確実。代わってピケ、バード(シーズン5以降)といった”大物”の名前が取り沙汰されています。またウィリアムズF1との関係からフェリペ・マッサも既にテスト経験があり、F1での動向次第ではリストに上がってくるでしょう。

Photo:Autocar

 

 

シーズン3全体の傾向として、ギアは減少傾向(変速なしx3、2速x5、3速x2、4速以上はなし)にあり、モーター&ギアボックスとも横置きを採用したチーム、インバーターはギアケーシング内に収めるチームが上位に来ている感があります。また先述の通り今季はAクラスとBクラスにくっきりと分かれる結果になりましたが、来季もこの格差が続くのか、それとも下克上が起こるのか注目ですね。