メルセデスとポルシェ、DTM/WEC撤退の影響

 

メルセデスが2018年限りでのDTM撤退、ポルシェが今シーズン限りでのWEC LMP1撤退をそれぞれ発表しました。モータースポーツ界に激震が走ったこの二つの出来事の影響について考えてみたいと思います。

 

DTMは存続か、シリーズ中止か

2000年に現在の”新生”DTMが誕生して以来、唯一一貫して参戦してきたのがメルセデスでした。ワークス活動を担うHWAの代表ハンス・ヴェルナー・アウフレヒトさんが、そのままシリーズのオーガナイザー&プロモーターであるITRの代表に就くほど、メルセデスはDTMの中心メーカーとして、これまでシリーズを支えてきたわけです。それだけに他のメーカーが撤退するのとはワケが違います。

hans werner aufrecht

Hans Werner Aufrecht (Photo:DTM)

確かにオペル撤退後の2006〜11年のように、アウディとBMWがお互いに8〜10台ずつエントリーさせれば、存続自体は可能でしょう。ただアウディとBMWに、当時のメルセデスほど積極的にシリーズを支えていこうという熱量は感じられず、ましてや、いずれもメルセデスと同じくFormula Eへのワークス参戦を表明しているだけに、同じような理由付けからの撤退→シリーズ中止もあり得る話です。

 

NRE導入? NA V8継続?

以前からDTM側は、SF/SGTで使用されているNRE (2リッター直4直噴ターボ+流量規制)規定の新エンジン導入に対して消極的な姿勢が目立ちましたが、撤退が18年限りというのも、DTMへの時間的猶予と同時に、19年から導入予定のNREをわざわざ開発したくないという事情もあるのかもしれません。メルセデスの場合は特に、F1のPU開発に莫大なコストがかかっている上(同時に21年以降の新規定PUへの対応も)、更にNREもとなると大きな負担となるのは明らかです。

NRE

NRE Honda HR-414E & Toyota RI4A (Photo:SuperFormula)

また英独仏を皮切りに世界的に脱ガソリン&ディーゼル、ZEV推進が進む中、今さらNREで燃焼効率を競うより、EVの技術開発を宣伝できるFormula Eの方が、経営陣を納得させる材料としてははるかに有効でしょう。もしアウディとBMWも同じ意向なら、たとえシリーズが存続したとしても、NRE導入は破棄され、現行の4リッターNA V8継続になるかもしれません。

逆に予定通り19年からNREを導入することで、GT500からDTMに勧誘するという話もあるようです。しかしSGTを重要視する日本メーカーにとっては、たとえ受けたとしてもメーカーあたり1〜2台が限度でしょうし、3メーカーが揃わない限り、とてもメルセデスの穴を埋める台数にはなりません。いずれにしても困難な状況になるのは間違いなく、ITRの新代表に就任したベルガーさんはタフな舵取りを迫られそうです。

 

SGTへの影響、F3のワンメイク化加速?

DTMと共にクラス1規定を制定・推進してきたSGT (GT500) は、シリーズ自体への影響はないとしても、DTMがもしシリーズ中止、あるいは存続してもNRE導入中止となれば、交流戦の開催はもちろん、世界一決定戦も白紙にならざるを得ないでしょう。それはクラス1という規定が崩壊し、再び独自規格への回帰を強いられることを意味します。米IMSAも一応クラス1に名を連ねてはいるものの、元から導入への関心は薄いため、GTAは国際戦略の練り直しを迫られることになります。

考えられる唯一の道は、以前話題に上がったFIAによるクラス1世界選手権の創設でしょう。このシリーズが事実上DTMを代替する形になれば、日独以外のメーカーも巻き込んで人気を博する可能性もあります。おそらく18年中には今後の道筋が見えてくるのではないでしょうか。

もう一つ、当ブログで取り上げたばかりのF3はどうでしょうか? F3へのエンジン供給については何も言明されていませんが、元々FIA F3(旧ユーロF3)自体がDTMとセットで行われてきたシリーズだけに、影響が全くないとは思えません。F3エンジンの開発・供給自体はカスタマー・プログラムとしてHWAが担っているため、利益がある限りDTMとは切り離して続けることも考えられますが、メルセデスの決断次第では、FIAが目論むF3のワンメイク化を促進することにもなりかねません。それは取りも直さず、全日本F3にも及ぶ話でもあります。

 

ポルシェ撤退で、LMP1-Hクラス消滅?

一方、ポルシェのLMP1-H撤退については以前から噂があったので、それ自体は驚きではないのですが、今シーズン限りというのは全く予想外でした。ACOには少なくとも18年までの参戦を確約していたはずで、シリーズにとってはまさに晴天の霹靂でしょう。

FIA/ACOは今年のル・マンで、2020年からの次期LMP1-Hレギュレーションを発表しましたが、PHVはじめ新規マニュファクチャラーを呼び込むような魅力は皆無なモノでした。Wハイブリッドや回生8MJに拘る以上、参戦コストの高騰は避けられず、エアロパッケージの限定や、風洞利用制限など小手先のコスト削減策を導入したところで焼け石に水です。

少なくともLMP1版のDPi規定なら、プジョーやニッサン(ESMと提携?)などの参入が見込めたはずですが「北米の案になんかに乗れるか!」というACOの無駄なプライド、そしてポルシェ&トヨタの主張にばかり寄り添った結果がコレです。自業自得と言えなくもありません。

2011年にプジョーが撤退した際は、ハイブリッド導入がトヨタを呼び込み、アウディ1社になる危機を回避したわけですが、上記の通り今の新規定には何の魅力もなく、状況は当時よりはるかに深刻です。

同じLMP1でもノンハイブリッドのLMP1-Lではジネッタ、SMP/ダッラーラ、ペリンといったコンストラクターが新たに参戦を表明しており、ある意味では華々しいワークス全盛時代が終わり、これから数年はプライベーターが主役になる時代なのかもしれません。個人的にはそれもまた一興ですが。

PERRINN LMP1 Prototype

PERRINN LMP1 Prototype (Photo:Sportscar365)

それにしても結果的にとはいえ、WRCのVWにしろ、WECのポルシェにしろ、WTCCのシトロエンにしろ、たった3〜4年の参戦で、勝って勝って勝ちまくっての勝ち逃げというのは、いまひとつ納得いかないところがありますね。ワークスが資金力にモノを言わせて、シリーズを荒らすだけ荒らして去って行った印象です。これだからメーカーは……と愚痴りたくもなります。

 

ワークスドライバーの行方は?

今シーズンはDTM、LMP1-Hともにドライバーはメーカーあたり6人編成ですが、Formula Eでは当然2人です。つまり現在のメンバーから選ぶとしても、最低4人はワークス・プログラムから外れることになります。

メルセデスにはフォーミュラ向きのドライバーが多く、F1経験者のポール・ディ・レスタとパスカル・ヴェアライン(19年にはF1シートを失っていると予想)をはじめ、既にFEで優勝を経験しているフェリックス・ローゼンクビスト、F3時代にマカオGPを2連覇したエドアルド・モルターラ、先日F1テストに参加したルーカス・アウアーなど、候補者は枚挙に暇がありません。もちろん現在、DTMと並行参戦しているマーロ・エンゲルも候補の一人でしょう。

一方、ポルシェは参戦カテゴリーの性格上、ハコ/耐久向きが多いため、現在のラインナップではニール・ジャニ、ブレンドン・ハートレー、それに残留した場合はアンドレ・ロッテラーのみが候補かと思われます。この3人はチーム内でも実力的に頭一つ抜けており、ワークス活動で1年のブランクが空く来シーズンの去就が注目されます。

ロッテラーに関しては2年連続で所属チームがシリーズを撤退する憂き目に遭ったわけで、同情を禁じ得ません。ポルシェは今シーズン、大幅にLMP1のドライバーラインナップを変更したわけですが、一体何のためだったのかよくわからなくなりましたね。

Porsche 2017 LMP1 Drivers

Porsche 2017 LMP1 Drivers (Photo:Flatsixes)

今シーズンからLMP1チームに加わったアール・バンバーとニック・タンディは、おそらくGTEへ”復帰”することになるでしょう。ティモ・ベルンハルドもGTEかGT3で固いと思われます。

幸いと言うべきかわかりませんが、欧州メーカーはGT3に積極的で、欧州(ブランパンやGT Openなど)、北米(IMSA、PWCなど)、日本(SGT)など世界中の様々なシリーズに、ほぼセミワークスのような体制で参戦しています。そのためワークス・プログラムから外れても、GT3のシートには全く困らない状況です。たとえGT3でもメーカーとのプロ契約ですから、トップカテゴリーにさえ拘らなければ、シートは保障されているとも言えるでしょう。昨年WECを撤退したアウディでも、ブノワ・トレルイエとマルセル・ファスラーがブランパンにGT3で参戦していますよね。

これが日本のメーカーだと、たとえばトヨタがWECから撤退した場合、アンソニー・デヴィッドソンやマイク・コンウェイがトヨタに残って、SGTやSFに参戦するのは想像し難く、かと言って、国際レベルのドライバーが納得できるようなカスタマー・プログラムにも乏しいのが現状です。自動車メーカーのワークス・プログラムはいつかは終了する運命でもあるので、日本のメーカーにはそんな”受け皿”のことも、もう少し考えてほしいですね。