フォーミュラE シーズン3 レビュー(1) ドライバー編

 

16/17 Formula E Champion:Lucas di Grassi(Photo:CNN

セバスチャン・ブエミが開幕から6戦5勝した際には、今シーズンのタイトルは早々に決まりかと思われたのですが、後半にまさかの急失速。抜群の安定感でコツコツとポイントを積み重ねたルーカス・ディ・グラッシが、3年目にして初のタイトルを獲得しました。そんなFormula Eシーズン3を振り返ってみます。

 

歪なカレンダーは改善必至

と、その前にひとつ苦言を。

今シーズンの日程はあまりに歪だったと言わざるを得ません。昨年10月の香港から今年5月のパリまで、半年以上かけて前半6戦を消化(途中3ヶ月もの中断を挟む)したにも関わらず、後半6戦はブリュッセルの開催中止もあり、6〜7月の2ヶ月弱でダブルヘッダー3連戦で消化という、あまりに極端なカレンダーでした。

極め付けがニューヨークとWECニュルブルクリンクとのバッティングです。FEと並行して参戦するカテゴリーとしてはWECが最も多いのは最初からわかっていたにも関わらず、調整に失敗した(怠った?)FEH (Formula E Holdings) の責任は免れません。幸い今後は回避されるそうですが、FIA選手権としてのステータスを保つには、より安定・適正化されたカレンダーは必須でしょう。

 

優勝以外はポイントゼロだったブエミ

そんな日程に泣かされたのが、タイトルの本命だったブエミです。開幕から6戦5勝しながらも、ダブルヘッダー3連戦では僅か1勝止まり。しかも2戦欠場・2戦失格という散々なものでした。

ブエミは優勝6回以外はPP&FLを除きノーポイントという、実に不安定なシーズンでした。それが昨年 (3勝) の倍勝ったにも関わらず、24点もの大差でタイトルを逃した大きな要因です。かつてF1でも1987年に、3勝のネルソン・ピケが6勝のナイジェル・マンセルを破ってタイトルを獲得した例があります。この時もマンセルが6勝以外は表彰台が3位1回のみだったのに対し、ピケは2位7回&3位1回という抜群の安定ぶりでタイトルを奪ったのでした。

ただ今シーズンのタイトル喪失は、NYの欠場ももちろんですが、本人の”キレやすい”性格にも原因がありそうです。最終ラウンド前には、タイトルを争うディ・グラッシを喋り過ぎだとメディアで”口撃”したり、最終戦レース1後にはライバルらに暴言を吐いたり(実際はまったくの言いがかり)。プレッシャーから来たものなのでしょうが、もう少し冷静さを保つことができていれば、3年連続チャンピオンになっていてもおかしくないはず。キャラと捉えればファンは楽しめますが、なんとももったいない感は拭えません。

 

ディ・グラッシ、無冠の帝王を返上

対するディ・グラッシはMr.Consistentとでも呼びたくなるような抜群の安定感を発揮。優勝こそ2回に留まったものの、12戦中表彰台7回、入賞は実に11回という図抜けた安定感でした。全戦完走自体は5人居るのですが(ローゼンクビスト、サラザン、ピケ、フラインス、キャロル)、トップ5フィニッシュは10回、最低が最終戦の7位なのですから、文句のつけようがありません。

ディ・グラッシはこれまでのキャリアにおいて、4輪デビューのFルノー2.0ブラジルで2位、同じく南米時代のF3 Sudamericanaも2位。欧州に移っても05年のユーロF3が3位、GP2では07年2位、08年&09年3位。スポーツカー転向後、WECでも14年&15年4位、16年2位。同じくル・マンも13年3位、14年2位、15年4位、16年3位。そしてFEでも初年度3位、2年目2位と、まぁ見事なまでにタイトルに縁がなく、文字通りのシルバー&ブロンズ・コレクターでした。このレベルのドライバーになると、大抵はキャリアのどこかで何か一つはシリーズタイトルを獲っているものですが、ビッグタイトルと言えば05年のマカオGP優勝のみ。今回のタイトル獲得で、4輪デビューから16年目にして、ついに”無冠の帝王”返上です。

2005年マカオGP表彰台:ロバート・クビツァ、ルーカス・ディ・グラッシ、セバスチャン・ベッテル(Photo:F1fanatic

興味深いのは、過去3シーズンの優勝回数はブエミが12勝と他を圧倒している(ディ・グラッシは半分の6勝)一方、総獲得ポイントではディ・グラッシがブエミを上回っていることです(ディ・グラッシ467、ブエミ455) これは過去2年が10点差&2点差という僅差だったのに対して、今シーズンは最終的に24点という大差が付いたのが大きいですね。

 

ローゼンクビストの驚異的な適応力

ランキング3位〜5位には後半のダブルヘッダー3連戦でそれぞれ活躍したドライバーが並びました。

フェリックス・ローゼンクビストはルーキーながら、デビュー戦でFL、2戦目でPP&表彰台、そしてベルリンで初優勝と一気にブレイク。しかもPP3回&FL2回はブエミ(PP2回&FL1回)やディ・グラッシ(PP3回)をも上回り、全ドライバー中最多です。全戦完走も含め、FE独特のドライビングに苦戦するドライバーも多い中、その適応力の高さには驚かされますね。

Felix Rosenqvist won the Berlin ePrix race1(Photo:FIA Formula E

並行して参戦するSuper Formulaでも、2戦目で4位&FL、3〜4戦目には表彰台を獲得している他、インディカーでもガナッシのテストに参加し、エンジニアから絶賛されるなど、何に乗っても速いそのオールマイティーぶりは当代随一と言えるでしょう。

彼にはガナッシから既にインディ参戦のオファーもあるようですが、長年サポートを受けるメルセデスがシーズン6からワークス参戦することもあり、その去就にも注目が集まります。

 

常連のバード&躍進のヴェルニュ

サム・バードはFE初年度からランキング上位の常連ですが(5位ー4位ー4位)、所属のDSヴァージンが今シーズンに向けて、ツインモーターからシングルモーターへと変更したこともあり、前半は若干出遅れました(それでも表彰台2回獲得) しかしエネルギーマネージメントの改善に伴って復調し、初開催のNYダブルヘッダーを連勝。最終戦でも予選でパワートレインが予選モード (最大200kw) に入らないトラブルに見舞われながらも、決勝ではトップ5まで巻き返しました。終わってみれば、後半のダブルヘッダー3連戦では全戦入賞と、右肩上がりでシーズンを終了。オフシーズンの進捗次第では、来シーズンはタイトル争いに絡んで来ても不思議ではありません。

5位のジャン・エリック・ヴェルニュは、FEデビュー戦でPPを獲得するなど、予選の速さには目を見張るものがありましたが、これまではFE独特のエネルギーマネージメントに苦しみ、決勝ではズルズルと後退して行くシーンが目立っていました。

しかしTecheetahに移籍した今シーズンは、FEマシンへの慣れ、ルノーのカスタマーパワートレインの高い競争力、そしてチームリーダーとしての自覚により上位の常連に。旧Team Aguriの技術力ゆえか、マシントラブルにより優勝や表彰台を逃すことが何度もありましたが、最終戦でついに初優勝を達成。トップコンテンダーへの足掛かりとなるシーズンでした。

特筆すべきは予選スーパーポール9回進出という記録。しかもトップ10外ゼロというのは、F1ほどヒエラルキーが確立していないFEでは驚異的ですね。

 

ワーストドライバーはダ・コスタ

ニック・ハイドフェルドはこれまでのベストシーズンだったものの、今季も最高3位は更新できず。ベテランらしくパワートレインの開発や、新しくなったミシュラン・タイヤへの対応など、ローゼンクビストの活躍&マヒンドラ躍進の影には、ハイドフェルドの貢献があった一方、シリーズ創設初戦のあの最終ラップの大クラッシュ以降、すっかり勝ち運に見放されてしまった感があります……。

今季最大の期待外れはアントニオ・フェリックス・ダ・コスタです。入賞は開幕戦の5位1回のみ。フル参戦の中ではフォーミュラに長いブランクがあるルーキーのアダム・キャロルを上回ったのみで、ランキング20位に低迷。スポット参戦のピエール・ガスリーや、最弱(失礼!)ヴェンチュリでシーズン途中から参戦のトム・ディルマンより下というのは、全く褒められたものではありません。いくらアンドレッティATEC02の競争力が乏しいとはいえ、チームメイトに予選で3勝9敗、ポイントも半分以下では言い訳になりません。本来ならシーズン5からワークス参戦するBMWのエースになるべき存在ですが、来季もこのような体たらくでは、FEのラインナップ自体から外される可能性もあり、来季は早くも正念場でしょうね。

Robin Frijns (left), Antonio Felix Da Costa (right)(Photo:E-Racing

 

その他のドライバーの短評

  • ニコラ・プロスト(ルノーe.DAMS 6位)
    ディ・グラッシと同じく11戦で入賞する安定感でチームタイトル3連覇に貢献するも、優勝はおろか表彰台もゼロ。スポット参戦のピエール・ガスリーにも遅れをとるなど、徐々にポジションは下降気味。

  • ダニエル・アプト(アプト・シェフラー 8位)
    表彰台ゼロ。ポイントはディ・グラッシの1/3。ルノーe.DAMSが3連覇できたのは、アプトのおかげです。来季からアウディがワークスとして関わりますが、いつまで家族のコネだけでシートを得られるか。

  • ホゼ・マリア・ロペス(DSヴァージン 9位)
    3年連続WTCCチャンピオンは、印象に残るシーンこそ少なかったものの、終わってみれば10戦中7戦で入賞。表彰台2回と上々の1年目でした。予選ではバードに勝ち越すなど、来季以降に期待大。

  • ステファン・サラザン(ヴェンチュリ〜Techeetah 10位)
    大ベテランはヴェンチュリではルーキー、エンゲルのペースにも敵わず、いよいよ終わった感がありましたが、Techeetahに移籍するとまさかの表彰台2回! まだだ、まだ終わらんよ!(笑)

  • ネルソン・ピケJr(NEXTEV 11位)
    開幕戦のPPをピークにどんどん下降。後半3連戦ではついに入賞ゼロ。なかなか向上しないクルマの競争力に、初代チャンピオンも我慢の限界か?

  • オリバー・ターベイ(NEXTEV 12位)
    予選ではピケに勝ち越し、メキシコではPPも獲得。12戦中6戦で入賞の安定ぶり。しばしば上位を走るなど、ピケより目立つケースが多かった。NEXTEVのランキング6位は彼あってのもの。

  • ロビン・フラインス(アンドレッティ 13位)
    予選・決勝ともダ・コスタを上回り、チームのランキング7位に貢献。来季は移籍濃厚も、トップチームで見てみたいドライバーの一人。

  • ジェローム・ダンブロジオ(FFドラゴン 18位)
    通算2勝の実力者もクルマの競争力不足に泣く。ただデュバルとの諍いによってエンジニアが離脱するなど、チーム内を混乱に陥れたのはいただけない。

  • ロイック・デュバル(FFドラゴン 15位)
    DTMと違ってこちらの低迷はクルマの問題。それでもFL2回と奮闘するも、荒いドライビングも目立ったのはマイナスポイント。アウディとの契約が今後どう影響するか注目。

  • マーロ・エンゲル(ヴェンチュリ 17位)
    関係者からの評価が高いドライバーですが、やはりハコ向きの印象は変わらず。

  • トム・ディルマン(ヴェンチュリ 19位)
    昨年のFormula V8 3.5チャンピオン。サラザンの移籍によってパリでFEデビューし、7戦のみの参戦ながら入賞4回&全戦完走は立派。エンゲルを凌ぐ走りで、来シーズンもぜひ見たいドライバー。

  • アダム・キャロル(ジャガー 21位)
    GP2時代にルイス・ハミルトンやニコ・ロズベルグらとやり合い、A1GPではチーム・アイルランドにタイトルをもたらした実力者も、6年ものフォーミュラのブランクは隠せず。エヴァンスのペースに全くついて行けませんでした。

  • ミッチ・エヴァンス(ジャガー 14位)
    新チームでのデビューながら、最高4位を記録。FLも獲得するなど、元GP3チャンピオン&GP2の上位常連の実力に疑いなし。今後ジャガーの競争力向上に伴ってブレイクする可能性大で、将来のウィナー候補。

 

次回は移籍市場も交えてチーム編を。