牧野任祐が所属するハイテックというチーム

ホンダのサポートの下、今シーズンから欧州へ渡り、FIA F3へ参戦中の牧野任祐。彼が所属しているのが、イギリスに本拠を置くHitech Grand Prixです。しかしCarlinやART Grand Prixといった、これまでに日本人ドライバーが所属したことのあるチームと違って、日本では馴染みが薄いのではないでしょうか。一体どんなチームなのでしょう?

日本のモータースポーツメディアでは、よく”新興”チームと紹介していますが、実際は”再興”チームと表現した方がより正確です。ただ事実上、新チームと言っても間違いではありません。理由は後述します。

 

 

設立から5年でイギリスF3制覇

Hitech GPの前身であるHitech Racingは、2002年にDavid HayleとDennis Rushenの二人によって設立されました。

David Hayle:Team Manager (Flickr)

David Hayleはエディー・ジョーダン・レーシングでキャリアをスタート。その後、三菱のWRCプログラムでデザイナーを務めた他、プロドライブ最初のWRCマシンも手掛けます。90年代後半から2000年代初頭にかけては、Fortec Motorsportのチーフエンジニアやチームマネージャーを歴任、チームを成功に導きました。

そして2002年、HayleはルノーF1のドライバー育成プログラム”RDD”の支援を受けて独立し、2003年にBritish F3への参戦を開始します。

F3では初年度にして初勝利を挙げた他、韓国で行われたKorea Super Prixも制覇。そして2004年にはルーカス・ディ・グラッシを擁して、伝統のマカオGPで表彰台を獲得します。

勢いに乗って2005年には新設されたGP2に、Piquet SportとのジョイントチームHitech Piquetとして参戦しますが、このコラボレーションは上手く機能せず、僅か1年で終了となりました。

しかし2007年、全日本F3でも活躍したMarko Asmerが22戦11勝11PPと圧倒的な強さでBritish F3チャンピオンに輝き、チームに初のタイトルをもたらします。2009年にもWalter Grumbuller JrとRenger van der Zandeがそれぞれランキング2位-3位を獲得するなど、チームとして最初のピークを迎えました。

 

 

売却、分裂、南米

さてここから話は少々複雑になります。

Hayleは2007年にチームをオーストリアのビジネスマン、Walter Grubmuller Sr(先述のドライバーの父親)に売却し、自身は新たにHitech Junior Teamを設立します。Hitech JrはFルノーUKやSuper League Formula(サッカークラブとのコラボレーションという意味不明なシリーズw)を戦った後、2010年からはAtech Grand Prixに名を変え、この年から始まったGP3に参戦。この時ドライバーを務めていたのが、現チームオーナーのOliver Oakesです。

しかしReid Motorsportとの提携などの施策も実らず、成績不振により資金繰りが悪化。結局2012年限りでGP3から撤退し、チームも消滅してしまいました。

一方、”本家”のHitech Racingは、2011年限りで衰退一途のBritish F3から撤退。CarlinやFortecといったライバルチームが、FIA選手権となったF3 Euro Seriesに合流する一方、Hitechはなんとブラジルに拠点を設け、F3 Sudamericana (南米F3) への参戦を始めます。

2013年にはFelipe Guimarãesを擁し同シリーズとF3 Brazil Openでチャンピオンを獲得。翌年もBrazil Openを連覇しました。参戦カテゴリーの変遷はあるものの、南米での活動は現在も継続中です。

Official:http://www.hitechracing.com.br/

 

 

Oliver Oakesによる再始動〜現在

Oliver Oakes:Team Owner & Managing Director

南米での活動が軌道に乗る一方、欧州での活動は2012年以降、事実上の休止状態でした。しかし2015年に元ドライバーのOliver Oakesがオーナーに就任したことを機に復活。活動を再開します。David Hayleもチームマネージャーとして”復帰”し、名称もHitech Grand Prixへと変更。この年は翌年からのフル参戦を見据え、FIA F3の終盤2戦にスポット参戦しました。

FIA F3参戦にあたって、チームは名門ART Grand Prixの子会社AOTechと提携。AOTechはART代表のフレデリック・バスールと、OAK Racing(現Onroak Automotive) 代表のJacques Nicoletによって設立された技術企業で、Hitech GPには車体の空力開発(16年のみ)や現場のエンジニアリングサポートなどを提供しています。契約は16年からの2年間で1年の延長オプション付き。

参照:Hitech GP get F3 back-up from ART sister company AOTech (Autosport)

HitechとARTとの関係は古く、HitechがBritish F3参戦にあたって、ART(当時はASM)が所有していたフランスF3(当時)の車両を購入した頃まで遡ります。

 

 

現在のHitech GPはオーナー&チーム代表のOakesと、チームマネージャーを務めるHayle、そしてPrema Powerteamから加わったエンジニアリング・ディレクターのJohn McGillの3人が中心となっています。

McGillはVan Amersfoort Racingのエンジニアとしてキャリアを始めた後、BARホンダやベネトン/ルノー、トロ・ロッソといったF1チームで活躍。Premaではテクニカルディレクターとして常勝軍団を支えた人物です。McGillは今シーズンのチーム内では、エース格にあたるJake Hughesのレースエンジニアも務めています(牧野担当はCourteney Cresswell)

参照:Hitech Grand Prix – FIA-F3 – FIA Formula 3 European Championship

John McGill:Engineering Director (Hitech GP)

また忘れてはならないのが、ドライバーのNikita Mazepinの父Dmitryが代表を務める、ロシアの大企業URALCHEM Holdingが、メインスポンサーとして運営に参画していることです。これによりF3でも屈指の資金力を得ました。昨年、フル参戦初年度ながらGeorge Russellが総合3位、チームランキングでもPremaに次ぐ2位と大躍進した背景には、この資金力と、それを活かしたAOTechによる空力開発があったのは間違いないでしょう。

 

 

今シーズンはクルマのアップデートに伴い、レギュレーションで空力開発が禁止されたことで、昨年のアドバンテージは消滅してしまいました。更にはVWエンジンの性能向上も加わり、執筆時点では開幕3ラウンドを終えて5チーム中4位と苦戦を強いられています(開幕2ラウンドは昨年開催されなかったコースのため、データ不足だったのも一因でしょう) はたして牧野ともども今後の巻き返しはなるでしょうか?

ちなみにチームは将来的にFormula EまたはLMP2への体制拡大も検討中です。

参照:牧野任祐起用と報道のハイテック、フォーミュラEやLMP2への活動拡大を計画 (AUTOSPORT WEB)

 

Official:Hitech GP | European FIA Formula 3 Team
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