最後にGP3およびFormula V8 3.5のプレビューと、その他の注目ドライバーなどを。
GP3:ARTの独壇場は変わらず
GP3では今シーズンもART Grand Prixが、George Russell(イギリス、昨年FIA F3 3位)、Jack Aitken(イギリス、同GP3 5位)、Anthoine Hubert(フランス、同FIA F3 8位)、そして福住仁嶺(同GP3 7位)という、反則というか、えげつないラインナップを揃えました。2010年のシリーズ創設から、8年間で5度目のドライバーズタイトルと、7度目(!)のチームタイトルは、既にこの時点で99.9%確実と言ってもいいでしょう。このシリーズに関しては、今シーズンもARTの独壇場ですね。
中でもタイトルの本命は、メルセデス・ジュニアに選ばれたGeorge Russell。昨年はPremaが支配するFIA F3において、新興Hitech GPからの参戦ながら、Premaの二人に次ぐ総合3位と大健闘を見せました。”FIA F3の中堅チームで活躍→ARTからGP3にステップアップ”、という流れは、昨年のチャンピオンCharles Leclercと同じルートですね。それにしてもイギリスからは次々と有望な若者が現れて羨ましい限りです。
Jack Aitkenは韓国とイギリスのハーフ。15年にFルノーEurocupとAlpsの2冠を達成。昨年はルーキーながら、経験に勝るチームメイトのJake Dennisと遜色ない走りでランキング5位を獲得。Fルノー上がりではトップの成績でした。最強ARTに移籍した今季は、チャンピオン以外は視界にないでしょう。
福住くんは昨年、初欧州な上に強力なチームメイトに囲まれながらもランキング7位と、1年目としては上々の成績でした。今年は1年の経験と、チーム残留のアドバンテージがある以上、チーム内最下位というわけには行きません。最低でも1勝、ランキング5位以内が及第点でしょうか(*開幕戦レース1で初優勝) 松下信治が今年でFIA F2ラストなのはほぼ確実なため、その後釜となれるかどうかがかかります。
GP3 その他の注目ドライバー
タイトルに関してはARTの4人以外に想像できないのですが、それ以外にも注目ドライバーを何人か。
Niko Kariはフィンランドの次代を担うと期待されている若手ドライバー。15年にSMP F4で21戦7勝表彰台19回と圧倒的な強さでチャンピオンを獲得し、レッドブルの育成プログラムに抜擢されましたが、昨年ステップアップしたFIA F3では、F4とのレベル差に順応できず総合10位と期待はずれの結果に終わりました。今季はGP3に転向し再起を期すシーズンとなります。
そんな成績にも関わらず、結果にシビアなレッドブルがサポートを継続するほどですから、その才能は高く買われているのでしょう。幸い所属するArden Internationalは、ドライバーズタイトルを2度獲得(12年ミッチ・エバンス、13年ダニール・クビアト)した、GP3ではARTに次ぐ強豪。昨年の経験を活かせれば、ARTの強力カルテットに割って入る可能性は十分にあります。
Jenzer MotorsportのArjun Maini(インド)とAlessio Lorandi(イタリア)は、いずれも昨シーズン途中にFIA F3からGP3にスイッチしたドライバー。特にMainiは転向早々から上位を走り、表彰台も獲得するなど、開幕2ラウンドを欠場しながらランキング10位に入る活躍でした。Jenzerへ残留し、今シーズンはトップ5も期待されます。また先日、ハースF1の開発ドライバーにも選ばれました。
開幕前最後のテストでトップタイムを記録したDorian Boccolacci(フランス)は、開幕1週間前になってようやくTridentと正式契約を交わしました。15年にFIA F3に参戦したものの不本意な成績に終わり、昨年はFルノー2.0に”ステップダウン”しましたが、Eurocupで2位、NECで3位を獲得。テストでの速さを見る限り、回り道は無駄ではなかったように見られます。Tridentは15年にLuca Ghiottoがランキング2位、昨年はAntonio Fuocoが同3位と2年連続でタイトル争いを演じており、Boccolacciもダークホースになるかもしれません。
日本をはじめF1ファンが気になるのは、ジャン・アレジの息子Giulianoくんでしょうが、彼はまだまだ経験不足。結果を出すにはもう少し時間がかかるでしょうね。
Formula V8 3.5は全く見どころなし
今シーズンのWorld Series Formula V8 3.5(長いのでWS3.5で統一w)に関しては、ハッキリ言って見るべきところは全くありません。
昨年エントリーが15台まで減少したものの、今季はWECとの提携によって、多少は盛り返すのでは?とも期待されたのですが、チャンピオンチームのArdenまでがまさかの撤退! 僅か12台という、なんとも寂しい光景となってしまいました。
量だけでなく質の面でも状況は深刻で、昨年はエントリーこそ少ないながらも、Tom Dillmann、Louis Deletraz、Mathieu Vaxiviereといったレベルの高いドライバーの参加によって、シリーズの質はなんとか保たれていたのですが、今シーズンは”ペイドライバーの巣窟”とでも呼べるような惨状を呈しています。
ラインナップを見れば明らかなように、名門Fortec Motorsportはメキシコマネーに、昨年Dillmannをドライバーズタイトルに導いたSMP Racing by AVFはロシアマネーに依存しています。本人には失礼ながらも、GP3では後方をウロウロしていたAlfonso Celis Jrが優勝できてしまうのが、現在のレベルを端的に表しています。開幕ラウンドで連勝したPietro Fittipaldiにしても、昨年は同じくルーキーのチームメイト、Deletrazに完敗していたドライバーですからね。
正直言って、現在は末期のAutoGPに近いように見えます。クルマは高性能でカッコイイ(個人的には現在のフォーミュラカーでいちばん好き)のに、なんとも勿体無い。
モータースポーツ全体を取り巻く環境の悪化もあり、WECのサポートイベントになったからと言って、そう簡単に再浮上は叶わないのも致し方ない部分もあります。まずはシリーズからLMP2やGTEプロ、あるいはWECでなくとも、ELMSへステップアップする実例・実績が必要でしょうね。それが増えることで、非現実的なF1より、現実的なGTやスポーツカーでプロを目指すドライバーを惹きつけられるようになるかと思います。
Fルノー&F4で注目のヤングドライバー
最後にFルノーやF4など、入門フォーミュラで個人的に注目しているドライバーを。
Fルノー2.0に参戦するレッドブル・ジュニアのRichard Verschoor (MP Motorsport) はロビン・フラインス、マックス・フェルスタッペンに続く、オランダ期待の若手ドライバー。昨年シングルシーターにデビューすると、SMPとスペインの各F4をまたいで15連勝という記録を作りました。もちろん台数の多寡もあるため、単純に数字で評価はできませんが、それでもなかなかできることではありません。オフシーズンに行われたToyota Racing Series (TRS) でも3位を獲得しており、レッドブルにとっても次代のF1候補生でしょう。
同じくFルノー参戦の中国人ドライバーYifei Yeは、昨年のフランスF4(日本のJAF-F4と同じく、独自規格のF4)で23戦14勝と圧倒的強さでチャンピオンを獲得しました。一方で並行して参戦したイタリアF4では未勝利に終わっており、なかなか評価が難しいところです。名門Josef Kaufmann Racingでカーナンバー1を背負う今シーズンのEurocupが、評価のバロメーターになるでしょう。
Marcus Armstrong(ニュージーランド)はカートで活躍後、昨シーズン終盤にFルノーで4輪デビュー。強豪ひしめくEurocupでいきなり表彰台を争い、一躍注目を集めました。フェラーリ・ドライバーアカデミーにもスカウトされ、TRSではランキング4位に。今シーズンはドイツのADAC F4に強豪Prema Powerteamからフル参戦します。ニュージーランドも小国ながら、近年次々と有望なドライバーを輩出しており、日本もその育成システムをもっと研究すべきではないでしょうか?
最後に今年シングルシーターにデビューしたVictor Martins(フランス) 体操選手から、13歳と比較的遅くにカートへ転向した変わり種ですが、それからたった3年でCIK-FIAの世界チャンピオンまで上り詰めた天才です。昨年フランスF4にスポット参戦し、いきなり表彰台を獲得。今年は同シリーズにフル参戦し、開幕2ラウンドで3勝4PPを挙げ、早くもランキングトップに立っています。このレベルでは、今年最も注目を集めるドライバーになるでしょう。既にF1チームもいくつかは目を付けているでしょうね。