ここがヘンだよ、ニッポンの育成プログラム(1)

ホンダのSRSやトヨタのFTRSが開校して約20年。佐藤琢磨、中嶋一貴、小林可夢偉という国際レベルのドライバーを輩出し、これまで一定の役割を果たしてきたと言えるでしょう。しかし本当にこのような”スクール”は必要なのでしょうか? 日本のモータースポーツにとって本当に有益なのでしょうか?

欧州には自動車メーカーが直接的にレーシングドライバーを育成・養成するようなスクールなど存在しません。そもそも幼い頃からレーシングカートをやってきたドライバーに、手取り足取りステアリング操作やブレーキの踏み方、ラインの取り方など教える必要があるのでしょうか? そういうのは入門フォーミュラ・チームでエンジニアなどにアドバイスを受けながら、ドライバー自ら学んでいくというのが、欧州での一般的な考え方でしょう。

よく勘違いしている方もいますが、F1チームや欧州メーカーは”育成”などしないんです。レッドブルが代表的ですが、彼らが行うのはあくまで金銭的・環境面のサポートであって、せいぜい専門家によるトレーニングやメディア対応、最近ではシミュレーターの使用程度でしょう。あとはドライバー自身が与えられた中で、彼らを納得させるだけの結果を出せるかどうかであり、できなければ切るだけです。大変シビアですが、合理的でもあります。つまり彼らが行うのはあくまで”投資”や”青田買い”であって、決して”育成”ではないんですね。そのため最近では日本で使われている”Development Program”より”Junior Program”と名付ける方が多いのです。

またF1チームは入門フォーミュラから目をつけるケースもありますが、欧州メーカーは最低でもF3をまともに走れるドライバーでなければ相手にすらしません。F3で光る原石を見出して初めて、自社のジュニアプログラムに”スカウト”するわけです。”育成”ではなく”スカウト”という所がポイントですね。メーカーによる育成プログラムが注目を集めたのは、90年代初頭のメルセデス・ジュニアチームがきっかけかと思いますが、あれにしても単純に前年のドイツF3上位3名をスカウトしただけの話です。

例えば今シーズンのDTMに参戦したドライバーの内、タイトル争いを繰り広げたマルコ・ヴィットマン、エドアルド・モルターラをはじめ、ジェイミー・グリーン、ゲイリー・パフェット、ポール・ディ・レスタ、ルーカス・アウワー、トム・ブロンクビスト、ダニエル・ユンカデッラ、エステバン・オコン、フェリックス・ローゼンクビスト、それに昨年のチャンピオンでF1へ進出したパスカル・ヴェアラインなど、彼らは皆ユーロF3(現FIA F3)で活躍しスカウトされたドライバーです。今シーズンもジョエル・エリクソンがBMW、マキシミリアン・ギュンターがメルセデスのジュニアプログラムにそれぞれスカウトされています。F3が若手ドライバー発掘の場としてきちんと機能しているんですね。

翻って日本はどうでしょう? 今年、全日本F3 Cクラスに参戦した13名のうち、三浦愛、イェ・ホンリー、山口大陸を除く10名が3大メーカーからサポートを受けるドライバーで占められています。トムスにTDP、B-MAXにNDDP、リアル&戸田にHFDPと、まるで各育成プログラムの代理戦争かのように振り分けられ、一見FCJかと見紛うほどです。これでは”FCJ-F3″とでも言いたくなります。

つまり現在の全日本F3にはメーカー系のスクールに合格しスカラシップを取得、メーカーのサポートを受けたドライバー”しか”実質的に参戦できないのです。Nクラスを圧勝しようが、FIA-F4で活躍しようが、3大メーカーのサポート外のドライバーにはF3(C)に参戦するチャンスすらない。スクールに入れなかった時点で、国内トップカテゴリーへの道はほぼ閉ざされるわけです。たった15歳〜18歳で、ですよ? これが果たして健全な競争環境だと言えるのでしょうか?

「Cクラスは参戦費用が高いので、日本ではメーカー支援に頼るしかない」という意見もあるかもしれません。だったらスクール出身者を優遇せずとも、FIA-F4でそのスカラシップ生より光るドライバーがいれば、新たにそちらへサポートを変更すればいいだけの話です。

しかし実際にそんなことが起こる確率はゼロに近いでしょう。メーカーの育成担当と言っても所詮はサラリーマンですから、自らの見る目のなさ、スクールの存在意義を失うような決定をできるわけがないのです。

こうして見ると、実力重視でスカウトされる欧州に対して、日本の育成システムはまるで「自動車メーカー直営のエレベーター式ドライバー学校」のようです。一旦スクールでスカラシップを獲れば、F4→F3→GT300→GT500/SFと、余程不本意な成績でない限り、メーカーの枠内で着実に出世できるのですから。しかも外でどれだけ実力をつけても、このエレベーターに途中から乗り込むことはできません。

スクールに入れるかどうか、スカラシップを獲得できるかどうかで、ある程度のドライバー人生まで決まってしまう日本の育成システム。ちょっとおかしくないですか?